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舌を巻く

したをまく

 舌を巻くとは、非常に驚く、感心するという意味。当然のことながら、牛タンの巻き寿司を作るという意味でも、スペイン語(および江戸っ子)のrの発音をするという意味でもない。

 筆者はこの「舌を巻く」という動作を、非常に驚いて舌が口の奥に引っ込む(巻き込まれる?)状態かと考えていたが、どうやら間違いで、中国古典に表れる「巻舌(舌を巻く)」は舌を巻物のように巻いて言葉を発しないという意味らしい。中国南北朝時代に編纂された『文選(もんぜん)』に収められた揚雄の「劇秦美新」という文章には、秦の始皇帝の圧政により、知識人が「卷其舌而不談(その舌を巻いて談ぜず)」とある。一般の辞書には『漢書』「楊雄伝」がその出典だとするが、その原文は「宛舌(舌をまげる、か?)」で、その後の注釈書が「宛」は折り曲げるというような意味なので「巻舌」とおんなじだよと解説したことで、「巻舌」と書かれることもあるらしい。いずれにしても「巻舌」や「宛舌」は言葉を発しない、言葉がしゃべれないという意味で、驚くとか感心するという意味はなさそうだ。中国や台湾のネットを検索すると、「巻舌」は古典に記された意味の他、江戸っ子(かどうかはともかく)の巻き舌発音が出てくる。「宛舌」のほうは「楊雄伝」の語解説が主である。つまり「巻舌」にせよ「宛舌」にせよ、現代ではあまり使用されていない言葉のようだ。

 日本でも、「巻舌」を訓読した「舌を巻く」は当初(平安時代くらいまでか)は「沈黙する」という意味で使われていたが、中世以降「驚く、おそれる、感嘆する」という意味でも用いられるようになったと見られる。つまり、「言葉を失うほど驚く」という慣用的な言い方が「巻舌」と結びついて、日本で「非常に驚く、感心する」という意味で定着したものと考えられる。(VP KAGAMI)

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