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鎮魂

ちんこん

 鎮魂とは、死者の魂をなぐさめ、静めること。仏教の法要や西洋のミサは鎮魂の目的で行われる。西洋の鎮魂の場合、死者の魂を静めることの意味は、死者がゾンビみたいに復活するのを恐れるから、という理解でよいのだろうか?(と、辞典から問いかけられても、読者の皆様は困ると思うが……)

「鎮魂」という熟語は、中国ではあまり使われない言葉のようで、検索すると、小説が原作でえらくヒットしたらしい中国ドラマのタイトルしか出てこない。鎮魂と同じ意味で現在でも使用されているのは「安魂」だが、これも使用頻度が高いようには思えない。

 一方日本では、古くから年1回陰暦11月寅の日に宮中で行われる「たましずめのまつり(みたましずめのまつり)」があり、その漢訳として、ほぼ直訳の「鎮魂祭」があてられている。律令の解説書『令義解(りょうぎのげ)』(833)によると、「鎮魂祭事」の「鎮魂」は、遊離した魂を体内に戻して静める(死にかけている人をよみがえらせる、早い話、病気を治す)ことを言い、漢字「鎮」は「安」と同意だとしている。つまり、もとの漢語は「安魂」であり、「鎮魂」は日本で案出された和製漢語と言ってもよさそうだ。「鎮魂祭」は「たましずめのまつり」と読むのが正式なのかもしれないが、漢字で書かれている以上「ちんこんさい」とも早くから読まれているようで、『弁内侍日記』(1246~1252)には「ちこのまつり」と、『チコちゃんに叱られる!』みたいなカワイい表記がなされている。

『令義解』にも書かれているように、日本の「鎮魂祭」は死者の魂を鎮めるのではなく、身体から逃げて行く魂を呼び戻し、静める儀式である。したがって「鎮魂」の意味も変わってくる。宮中の「鎮魂祭」は、神話の天岩戸事件で天照大神を岩戸から出すために催行された祭りを起源とする祭りだそうで、本来が病気平癒(天照大神の場合、うつ病だな)の景気づけでやらかしたどんちゃん騒ぎから来ているように、魂を揺り動かして活気づける「たまふり(魂振り。フレーフレー、た・ま・し・い、みたいなもんか)」、離れようとする魂を呼び返す「たまよばい」、そして、遊離しようとする魂を身体に戻す「たましずめ(この「しずめ」は「沈め」に通じるのではないかと思う)」という要素を含んだプログラムで構成されているという。また、先述の『弁内侍日記』でも、鎮魂祭の日は宮中で盛大な宴会が催されたようで、日本の鎮魂祭で、厳かな西洋のミサやレクイエムを連想するのは間違っていると言えそうだ。

 (KAGAMI & Co.)

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