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ミイラ、木乃伊

みいら

 ミイラとは腐敗せず乾燥した死体(主に人間の)のこと。自然にミイラ化するものと、人工的なミイラがある。人工的なミイラは、主に宗教的な理由から人間の干物を作るわけだが、アジの一夜干しのようには簡単に作れない。古代エジプトでは、死者の復活信仰にもとづき、死体に防腐処置を施して人工的にミイラ作りが行われた。しかし、あの姿で生き返られても、生きている方としてもどうお出迎えしたらよいのか困ると思うのだが……。日本では、偉いお坊さんが修行の一環として、土中に埋めた箱に入って自らミイラになる道を選んだが、よほど苦しい修行と見えて、途中で断念した人も多いという。尊敬しきっていた師匠が、途中であきらめて土中からのこのこ出てこられても、それはそれで弟子たちとしてもお出迎えのしかたに困ったのではないかと思われる。

 ミイラの語源は、ミイラを作る際に使う没薬(もつやく:ゴム樹脂の一種)の名称で、日本には江戸時代初期にポルトガル語mirraまたはオランダ語mirreから伝わったようだ。没薬の名前だった「ミイラ」という言葉は、その薬品を使って処理された死体(つまり、今言うところのミイラ)や、ミイラから採取する粉末状の薬品(万病に効くといわれ、日本にも江戸初期に輸入されたが、「万病に効く」なんて薬が「一病」にも効くわけがない)についても、そう言うようになった。漢字の「木乃伊」は、英語でミイラを意味するmummyと同系統のオランダ語mummieあたりの音訳だといわれる。英語でも今日、ミイラ本体を意味するmummyと、ミイラ造りに欠かせない没薬を意味するmyrrhがあるように、オランダ語でもミイラ本体を意味する語と没薬とは区別されていたようだ。しかしmummy系統の言葉は、西洋でも没薬やミイラから取れる薬の意味でも使われていたというから、ミイラ、没薬、万病に効く薬の区別は厳密ではなく、日本に伝わったミイラ(没薬)が、ミイラ本体を意味するようになってもなにも恥じることはない(だれも恥じてはいないと思うが)。(KAGAMI & Co.)

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