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ちゃぶ台返し、卓袱台返し

ちゃぶだいがえし

 ちゃぶ台返し(卓袱台返し)とは、怒りにまかせてそれまで進行している事項を終わりにする、他者の努力や厚意を無にするという意味。「社長がちゃぶ台返しして、せっかくの企画がおじゃんになった」などと使う。ちゃぶ台は畳の上に置いて使う低い高さのテーブルで、これをひっくり返すというのが本来の意味だが、上に何も置いていないテーブルではなく、食事が並んでいるテーブルをひっくり返すのである。要するに、せっかく誰かがその人のために食事を作り、テーブルの上に並べてくれたのに(つまり、しっかり「お膳立て」してくれたのに)、なにかちょっとしたことにキレて(たいていはしょーもない理由で)、その努力を無駄にするというのが「ちゃぶ台返し」なのである。

「ちゃぶ台返し」は一般の辞書には載っていない俗語といえるが、そのモデルは、スポーツマンガ『巨人の星』の登場人物・星一徹である(アニメオタクだったとしても、海外の人にはわかるまい。またポリコレに敏感な人は見ない方がいい)。スパルタ教育の父親が、しょーもないことに怒って(どういう理由かは知らないが、普通の親ならそんなことはしないという理由で怒っていたはず)ちゃぶ台をひっくり返していた(しょっちゅうひっくり返していたようにみんな思っているが、そのイメージが強烈なので実はほんの一、二回なのかもしれない)ことから、その言い方が生まれた。しかし、説明したようにその行為には、他者の「お膳立て」を無にするといった意味合いが意図したか意図せずか含まれており、意外に味わい深い俗語となっている。

 類語に「白紙に戻す」「振出に戻す」「無かった事にする」「手のひら返し」などがあるが、前二者はもう一度最初からやり直すという意味合いが強い。「なかったことにする」は、それまでの進行を打ち切るという点ではちゃぶ台返しに近いが、やらかした者が怒っている必要はなく、怒るのはむしろ、なかったことにされた方である。また「手のひら返し」は語感が似ているが、手のひらを返すように態度を180度変えるということで、裏切り行為の状況に用いられる。この「ちゃぶ台返し」を海外の人に伝えるなら、アメリカの映画やドラマで、ぶち切れた主人公が2階の窓からテレビや家具類をぶん投げているシーンを思い浮かべてもらうのがよいかもしれない。しかしそれだと、「お膳立て」という意味合いがうすれて、ただモノに八つ当たりして怒っているだけである。欧米で食卓をひっくり返すシーンをあまり見かけないのは、そこに「あなた作る人、わたし食べる人」という要素が読み取れるからかもしれず、ものに八つ当たりするにもなにかと気を使わなければならない昨今である。

​(VP KAGAMI)

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