天抜き

てんぬき

 天抜きとは、天ぷら蕎麦の蕎麦抜き。文字通りに読むと、天ぷら蕎麦の天ぷら抜きだが、それだとただの「かけそば」になってしまう(あるいは、天かすだけさみしく残る「たぬきそば」になる。「誰だよ、オレの海老天食っちゃったの」みたいな……)ので、「天抜き」は「天ぷら蕎麦の蕎麦抜き」の「ぷら蕎麦の蕎麦」抜きだと考えられる。そういう細かいことにこだわる人々の間では、天抜きを「台抜き」と言うこともあるようだ。「台」は「蕎麦」の意味。しかしこの場合、「台抜き」とだけ注文したのでは、どんなそばのそば抜きかわからず、「天ぷらそばの台抜き」と言わなければならず、かえってめんどうなことになる(鴨南蛮の台抜き」とか「おかめそばの台抜き」なんてのもあるらしいし)。

 また、もりそばに天ぷらが付いてくる天ぷらそばだと、「天抜き」はただの天ぷらになってしまうので、わざわざ「天抜き」ではなく「天ぷら」と頼めばよいわけで、「天抜き」は、かけそばの上に天ぷらが乗ってくる天ぷらそばのそば抜きだというのが業界の常識らしい。しかし、そういう細かいことにこだわる人々の間では、天抜きには「天すい」という呼び方もあるようだ。つまり「天ぷらの吸い物」という意味で、肉うどんのうどん抜きを「肉すい」と呼ぶのと同じノリかと思われる。

 要するに天抜きは、かけそばの汁の中に天ぷらがどっぷりひたっているしろもので、びちゃびちゃになった天ぷら(というそば屋でしか食べられない天ぷら)を楽しむ裏メニューである。こういう変態的なメニューは、そば屋に入ったとたんにそばをたぐるというようなヤボなまねはしない酒飲みが、酒のつまみとしてかっこつけて注文するものであるから、そば屋でもあえてメニューには載せないのであって(つまり、お勧めできない)、富士そばで注文してもたぶん断られる(いくらで売っていいのかもわかんねえし)。

 (KAGAMI & Co.)

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