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せこい

せこい

 せこいとは、役者や寄席芸人の隠語で、悪い、ひどい、下手だ、少ない、無いなどの意味。要するに自分の気に食わない対象について「ヤツの芸はせこい(芸が下手だ──自分はどうなんだという…)」「せこい客だ(反応が鈍い客──自分の芸の問題では?)」となんでも使うことができる。古くは「せこ」と使う場合が多く、「あいついはせこだ」「せこな客だ」のように用いた。隠語から一般化した現在では、主に、少ない、ケチだ、貧乏くさいという意味で、「せこい会社だ(給料安いんだよ)」「せこいホテルだ(ボロボロじゃねえか)」などと使う。

「せこ」の語源は明らかではないが、古い文献では1275年の『名語記』に「いやしき物をせことなづく」とあり、これが現代の芝居や寄席の隠語へとつながったと考えられる。「いやしき物」を「せこ」と呼んだことについては、当時身分の高い者が狩猟をする時、獲物を駆り立てる役の人足(要するに猟犬の役割だ)を「勢子(せこ)」と呼んでいたので、そのあたりからの慣用語化ではないだろうか。一方で、室町時代の使用例に、酒宴の席で上座の者の指示で末席の者に酒をすすめること、またその盃(『岩波古語辞典』)を意味するものがあり、そこから細やかな心づかい、倹約の精神へと慣用語化し、現代のケチだ、貧乏くさいという意味に繋がっている。「酒宴の席で上座の者の指示で末席の者に酒をすすめる」という状況がよくわからないが、戦国時代末期頃の狂歌合に「御狩場にすすむる酒の鳥肴せこを入れてぞ寒さ忘るる」(狩猟の酒宴で末席の者にも酒肴をすすめれば場が盛り上がって寒さも忘れる:筆者意訳)とある。これはつまり狩猟の打ち上げの飲み会風景で、「せこ」はまさに「勢子」であろうし、いやしいものやケチくさいという意味の「せこ」が、狩猟に連れて行く身分の低い人足「勢子」と関連しているというのは中世から近世にかけての常識だったかもしれない。

 なお、現在の使用で「せこい」がケチくさいという意味で一般化しているについては、バイクなどの中古品を意味する「セコハン」の影響も強いと考えられる。この「セコハン」は英語second-hand(中古の)をもとにした和製外来語で、古くから用いられている「勢子」「せこ」とはいっさい関係ないが、言葉の影響のしあいというのはそんなものと考える。(VP KAGAMI)

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