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もぐもぐ

もぐもぐ

 もぐもぐとは、口を開けずに食べ物を嚙む様子、または、口ごもりながら言葉を発する様子を表す擬態語。後者は「もごもご」などとも言う。いずれにしても、口を閉じて、または、口をあまり開かずに食べたり話したりする様子を表している。現在、ものを食べるときには口を開けず、音もたてずに(麵類など一部伝統的に特殊な食べ物は除く)食べるのがマナーとされているので、たいていの食事は「もぐもぐタイム(女子カーリング日本代表の間食時間として有名になった語)」になる。

「もぐもぐ」は比較的新しい言葉のようで、それ以前の「むぐむぐ」と同じく江戸後期から使用例が見られる。どちらかというと、口ごもってしゃべるありさまを言うのが主だったようで、『大言海』にも、口を動かさずにものを言う様子とあり、「もぐもぐタイム」は掲載されていない(そりゃないよ。少なくも「タイム」はない)。しかし夏目漱石は、この語を両方の意味で使っているので、そのころにはものを食べたり、口ごもったりする様子を表すのに普通に使われていたことがうかがわれる(後述するように、漱石は「もごもご」も使っている。意外なオノマトペの名主だ)。

 この言葉は、黙って行動する意の「黙々」と多少関係あるのかもしれないが、前身が「むぐむぐ」だったことを考えると疑問が残る。筆者としては、口をあまり開けずにものを言ったり、食べたりするときの音の感じを言葉にしたものと考えたい。口を開けずに発する音は「ん」だが、この音は昔は「む」で表した。「ぐ」は口の奥、つまり喉を鳴らして発する音で、言葉を飲み込む感じが表される。だから「むぐむぐ」である。食べ物を嚙むために歯を開くときは、口中を少し広げて「お」の形になるので、「む」が「も」に変化して「もぐもぐ」となる。口ごもるありさまの「もごもご」は、「も」の「お」音に引きずられて「ご」となったものと考えられるが、食事で歯をかみしめるときは最小限の口の開き方となるので「う」のまま残り「もぐもぐ」が採用される。漱石の『吾輩は猫である』には、主人が「空也餅(あんこ入りの餅菓子)を頬張って口をもごもご云わしている」という描写が出てくるが、「もぐもぐ」ではないので、主人はちゃんと餅を嚙んでいないと考えられ、これは空也餅が大きすぎてなかなか噛めないのか、頬張ったまま何か言おうとしているのか、友達と囲んでいる火鉢で餅を焼いたので熱くて噛めないのか(熱いんなら「はふはふ」かも)、そんなところかと想像される(そんなアホなことにつっこむの、あんただけやろ!)。

(KAGAMI & Co.)

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