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兎、ウサギ、うさぎ

うさぎ

 兎(ウサギ)とは、哺乳類ウサギ目の小動物。長い耳と大きい門歯(前歯)が特徴。野生種はほぼ全世界に分布する。愛玩用、食用、毛皮用として飼育される。日本でウサギが飼育されるようになったのは明治以降で、当初は愛玩用としてブームとなり価格が高騰して政府が規制するほどだった。後に軍隊の食用として、またアメリカ等への毛皮の輸出用として飼育数が増加した。

 日本では家畜を食べる習慣がほとんどなかったが、狩猟した鳥獣はそこそこ食されていて、ウサギもそのひとつ。しかし愛玩用として飼育されるようになってからは、進んで食べる人も少なくなった。フランス人はウサギを飼育して喜んで食べているが(かどうかは知らないが、少なくとも泣きながら食べてはいない)、そこんところ、ご近所のイギリス人あたりからクレームはついていないのだろうか(犬食や猫食には文句を言っているのでウサギも似たようなものだと思うが、詳しいことは知らない。あまり大々的に報じられないので、そこまで手が回らないか、クジラみたいに文句を言っても金をくれる人がいないか、それとも、一緒になって喜んで食っているのか)。

 ペットとしてウサギは日本で200万頭程度飼育されているようで、犬猫の1000万頭には及ばないが、意外に多い。そう感じるのは、犬のように散歩を必要とせず、猫のように野良として生き抜く力もなさそうなので、あまり目にする機会がないせいかもしれない。以前、横浜の山下公園で大量のウサギが集まっていた(もちろん飼い主付きで)のを見たことがあるので、地下アイドルみたいに熱心なファンがいるのだと思う。ある保険会社のデータによると、2015年以降ウサギの契約頭数が急速に伸びているようで、この数年ブームが訪れているのかもしれない。

 ウサギはあちこち囓ったり、糞のしつけができない(なぜか尿は決まった場所でできるらしい。ただ糞もころころしているので掃除はしやすそう)など多少のデメリットをがまんできれば、おとなしくて飼いやすい動物だと言える。警戒心が強く、感情があまり表に出ないのでペットとしてはものたりなさもあるが(個人の感想です)、年中鼻をひくひくさせているだけなのをカワイイと感じられれば飼い主としては合格である。

 月にウサギが住むという考えは世界中にあるらしく、古代アメリカやアフリカにも類似の言い伝えがある。仏教神話にはウサギが自己犠牲で釈迦に尽くしたというその由来まで書かれているが、この神話は世界に流布して『アラビアンナイト』や『イソップ』などにも影響を与えているのだという。ただ、仏教伝来以前の中国で成立した詩集『楚辞』にも月にウサギが住むという話が載っており、古くから多くの民族の間で共通した観念だったと考えるのが自然で、そのもとになったのは、やはり月面の模様ということになるだろう。

 日本ではウサギが餅を搗いている姿だと考えられてきた。しかし月のウサギの話が伝わってきたインドや中国にはその見立てはなさそうだ(「月餅」というお菓子が中国にはあるが、この「餅」は日本のよくのびる餅とは違う)。「餅つき」という行事自体が世界にはないので(中国の少数民族に残っている。詳しくは「餅(搗き餅)」の項参照)、イメージしにくいからかもしれない。ウサギの餅つきは、月の模様を見たままだともいえそうだが、満月を意味する「望月(もちづき。語源は「満ち月」か)」から来ているのでは、というダジャレ説もあり、できすぎではあるが捨てがたい。

 漢字の「兎」は音読みでは「と」だが、日本では古くから「う」と読み、『日本書紀』(720)には「問兎(という)」というどこだかわらからない北方の地名と「兎穂名(うほな)」という先住民族の名前が出てくる。というわけで、「ウサギ」も古くは「う」と言っていたのではないかとも考えられる。しかし「う」だけでは、鳥にも「う」というのがあるし、それと区別できたのかはなはだ怪しく、当初から「ウサギ」という名前で、「う」は略称だったのではないかとの疑いも残る。『古事記』(712)に出てくる因幡の白兎は、原文では初見で「裸兎」となっていて、現代ふりがなをふる場合は「はだかのうさぎ」とするが、これを昔は「らう」とか「はだかのう」と読んだのかどうかはわからない。200年ほど後の『本草和名』(918)には、兎は「和名を宇佐岐(うさぎ)」というとしているので、もとからウサギはウサギ(カモメはカモメみたいな?)だったのかもしれない。

(VP KAGAMI)

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