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いっそ、いっそのこと

いっそ、いっそのこと

 いっそ、いっそのこととは、思いきってという意味あいの言葉で、困難な局面を打開するために極端な手段を用いるときの気持ちを表現したもの。「別れるくらいなら、いっそ死んでしまいたい」「かたづけるのめんどうだから、いっそのこと燃やしてしまおうか」などと用いられる(どちらの例文も不適切であることをお詫び申し上げます)。この例でもおわかりのように、「困難な局面を打開するため」といっても、いわば「やけくそで」とか「キレて」、地道な解決手段を放棄し、「救いようのない行動に出る」といった気分を多分に含んだ言葉である。ある辞書には、「どうせだめなら」「ええいもう」「ままよ」などという、辞書らしからぬ類義語が載せられているが、気持ちはわからないでもなく、「いっそ」にはそんな日本的、艶歌的、義太夫的な思考停止感が表れていると言える。

「いっそ」は、中世から近世にかけて用いられていた「いっそう(いっさう)」が変化したものらしい。「いっそう」もまた、どれかを選ぶより全部まとめて処理してしまおうとする意味合いで、『曽我物語』には「心にかからん事をばためらひ候はず一さうにすべき物を(心にかかることはためらはずにぜんぶやってしまうべきものを)」とある。さて、この「一さう」がどこから来ているのかということだが、「なお一層」などと使う「一層」とする辞書が多い。ただ、「層」という漢字は「そう」とひらがなで表記されるので、ひらがなで「一さう」と表記されるのはおかしいし、「ますます」という意味の「一層」が「どうせだめなら」にどう変化するかも疑問だという説もある。それならと「一さう」と表記される漢語を探すと、すっかり払い除くという意味の「一掃」や、二つ一組という意味の「一双」などがある。『曽我物語』の文例を見ると「一掃」が意味として合っていると思うが、小学館の『日本国語大辞典』では意味の上から「一双」が適当ではないかとしている。どこが意味が通じているのか私としてはよくわからないが、まあ、大辞典がそう仰っているというにとどめておく。

 (KAGAMI & Co.)

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