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熨斗、熨

のし

 熨斗(のし)とは、贈答品や祝い金の包装紙に添付または印刷されている謎の飾り物。紅白の色紙をネクタイを逆さにしたような形に折りたたみ、中に黄色い紙をはさみこんでいる。こよりの紐を複雑な形に結んだ「水引(みずひき)」とともに、贈り主の心がこもった贈り物であることを示すサインである。

 「のし」は「のしたもの」、つまり「アイロンのようなものを押し付けて薄くのばしたもの」という意味で、現在の「熨斗(のし)」の語源となったのは、アワビの干物をプレスして平らに伸ばした「熨斗鮑(のしあわび)」である。アワビは長寿を表す縁起物であったことから古来献上品、贈答品として人気があった。その後、贈答品であればなんでも、包装の表面にのしあわびの細片を付け、「心を込めて縁起物を贈ります」という意を表すことが習慣となり、さらに、本物ののしあわびを使うのももったいなくなって(かどうかは知らないが)、現代のように記号化されたものに変わったのだという。紅白の色紙に張り付けてある黄色い紙がのしあわびの細片を表しているのである。なお、贈答品が魚介類などの生臭物である場合、記号化されたアワビとカブるので、熨斗は付けないというのがルールだそうだが、現在それが守られているかどうかは定かではない。

 このように、古くはほんもののアワビだったものが、形だけの印刷物に変わったという熨斗であるが、日本の伝統的な贈答行事、すなわち歳暮や中元、祝い金や祝いの品に添付されていることを考えると、贈り手がどれだけ心をこめたか知らないが、受け取る方はその包みを見て「どうせまたいつもの調味料の詰め合わせだろう」と高を括るという、贈答行事自体の形骸化も象徴化しているように思えてならない。(KAGAMI & Co.)

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