人民

じんみん

 人民とは、民衆、大衆、人々といった意味だが、政治的なとらえかたをした民衆、国民という意味で用いられることが多い。特に、近年では中華人民共和国とか朝鮮民主主義人民共和国など共産主義国家の国名に使用され、特に中国では「人民解放軍」だの「人民銀行」だの「人民服」だのと、やたらと「人民」を持ち出すものだから、どうしても「人民」と言うと、共産主義国家の国民というイメージが強くなってしまった。共産主義国家が「人民」を好むのは、共産主義が本来は国家を超えた国際的な活動を目指していたからで(ポシャったけど)、国家主義者が使いがちなnation(国民)に対するpeople(人民)が好まれたのである。

 それではそのpeopleを「人民」と訳したのは誰かというと、どうやら明治時代の日本人のようで、イギリスの人民憲章(1838)やリンカーンの例のあれ(「人民の人民による」という演説1863年)などが、その早い例かと思われる。そのせいか、最近中国人の中には、「人民」は日本生まれの漢字だと思い込んでいる人があるようだが、日本人が英語の訳として「人民」を用いるずっと以前に「人民」という言葉そのものはあって、古代中国の書物にどっさり出てくる。例えば『孟子』では「人民は尊く、神様はその次、それにくらべると君主はたいしたことはない(ひどい意訳ですが、孟子は「軽い」と言っているから、それほど間違ってはいないと思います)」のように、政治的な被支配者としての民衆といった使い方がなされている。ただ、中国で「人民」が常に政治的な意味で用いられていたかというと、例えば『史記 大宛列伝』には、「身毒(インドあたりにあった国)という国の人民は象に乗って戦う(インド象だろうね、やっぱり)」などとあるように、単なる「人々」という意味での使用が一般的だったと考えられ、英語のpeopleの訳としては悪くなかった。しかしリンカーンらによって売り出され、共産主義によってこてこてに味付けられた「人民」はあまりに政治色が強すぎるので、例えば1970年代後半にヒット曲をとばしたアメリカのPOPグループvillage peopleは、「村の人民」と訳すには重すぎ、せいぜい「村の人々」せめて「村民」が妥当。一方、「人民解放軍」を「みんなの解放軍」、「人民服」を「おれたちの服」なんて訳すのも、「バカにしてるのか」と怒られそうなので、空気を読みながら、臨機応変で訳すのがよろしいかと思われる。

(KAGAMI & Co.)

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