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泥棒

どろぼう

 泥棒とは、他人のものを盗む行為、その行為をする人。空き巣、強盗、引ったくり、置き引きなどを総称した言い方でもあり、路上で財布をすられた場合、ほとんどの人が、逃げて行く相手を「スリだーっ!」と言わず、「どろぼうーっ!」と思わず叫ぶ。つまり日本語の初心者は、いざというときのために覚えておきたいオールマイティなキーワードである。

 漢字の「泥棒」は「泥坊」とも書く。江戸時代に使われた泥坊または泥棒には、盗っ人のほか、放蕩者、無頼漢、また文字通りの泥まみれの人、顔に泥を塗られた(名誉を損なわれた)人などの意味があったようだ。「泥棒」は泥のスティック(ルー大柴かっ!)、「泥坊」は泥(まみれ)の人ということだが、いずれも盗っ人とは直接関係なさそうで、漢語にもないことから、日本語をもとにした当て字であることがわかる。「どろぼう」の語源については、「押し取り(強盗のこと)坊」の「取り」の変化したものであるとか(『大言海』)、「どら息子」の「どら(堕落の意味だという)」の変化であるとか、諸説あり定かではない。

 しかし、不思議なのは「泥棒」という当て字。「泥坊」なら「泥だらけの人」で意味が通じるが、「泥の棒」ではなんのことかわからない。その昔、「泥田を棒で打つ」ということわざがあった。泥田を棒で打つように理不尽なことをする、無分別にふるまうという意味で、放蕩者や無頼漢の所業を言い表すようになり「泥田棒(どろたぼう)」とも略された。つまり「泥田にスティック」(ルー大柴アゲイン)であり、これが「泥棒」の語源であると『大言海』は述べている。しかし、先ほど振れたように大言海先生は「泥坊」の語源を「押し取り坊」だとしており、ダブルスタンダードのように見える。これについて先生は、「泥棒」のほうの「どろぼう」は「遊蕩」とも字を当て、遊興に身を持ち崩すこと、泥酔している者の意味で、盗っ人の「どろばう」とは別の言葉だと強弁している。とはいえ、盗っ人の方の「泥棒(または泥坊)」も、昔から放蕩者や無頼漢の意味で使われていたし、両者が別であるというのは無理がある。「泥棒」と「泥坊」どちらが先に使用されていたか、もう少し研究する必要はあるが、放蕩者や無頼漢を意味する「泥棒」が先にあって、いまいち意味が通じないので「泥坊」という字が使われ、それにともなって、泥まみれの人、顔に泥を塗られた人、泥酔している者も意味するようになったと考えるのが自然ではないだろうか。

 (KAGAMI & Co.)