叩き、たたき

たたき

 たたき(叩き)は、刺身の調理方法のひとつ。庖丁で叩くからたたきというわけで、カツオのたたきやアジのたたきが代表的な料理だが、カツオのたたきとアジのたたきでは見た目がまったく違う。カツオのほうは普通の刺身の盛り合わせ(おつくり)であり(表面を炙っているので、皮が焦げてたりするのが普通の刺身とはちょっと違う)、アジのほうは細切れにした身をネギなどと和えたもの(頭と尻尾の間に身を盛り付けるという趣味の悪い演出もある)。というのも、カツオ料理とアジ料理では「叩き」の意味が違うからだ。

 カツオのたたきはもとは漁師のまかない料理で、捕れたカツオを解体して表面を軽く火であぶり、切り分けた刺身に塩を振って食べるわけだが、塩が貴重な船内のこと、ちょっとしか使えないので、庖丁の背で叩いてカツオの身にしっかり塩味をつけたことから「叩き」という調理法が生まれたそうだ。要するに塩の節約料理(ケチケチ料理)だったわけである。

 現在のカツオのたたきは、表面を炙ったカツオの切り身に塩を振った後(塩を振ってから炙る場合もあるようだ)、ポン酢やネギなどの薬味をかけて食べる料理となっていて、「叩く」作業の出番がないので、炙ることが「叩き」だと勘違いしているおバカもいるようだが(私もそうでした)、事情は先述のとおりである。現在の調理法で塩を振るのは、塩味を付けることに加えて、塩により表面に浮き出てくる水分を除いて魚の臭みをとる意味合いが強いようで、多くの簡単レシピで叩く作業は省かれる。それでも昔ながらの手法を律儀に守る人の間では、塩を振ったあと手の腹などで叩いて味を染み込ませるという手続きをとる場合もある。中には、最後にポン酢をかけるとき、身をたたいて味を染み込ませるという、その効果がよくわからない調理法があり、人それぞれ、それがうまいと思って作っているんだから、まあいいかという状況である。

 一方、アジのたたきは、切り分けた身を庖丁でたたくように細切れにするのが「叩き」であり、魚の身を庖丁で細切れにするのはめんどくさいので、薄切りにしたあと叩いて細かくする。つまり手抜き料理である。ただし、レシピによっては、生姜やネギなどの薬味を加えて一緒に叩くことで薬味の味をしみこませるという考え方もあるようで、だとすると、カツオのたたきの伝統的手法に則っている。なお、身と薬味を一緒に叩かない派の料理人も、細切れにした身と薬味をあえるときは庖丁を使ってまぜ合わせる。これは手の熱でアジの身を暖めない配慮だそうで、料理を作るときは、私らのようになにも考えずにレシピ通りに作るのではなく、その理由を考えながら作ることをおすすめしたい。

 (KAGAMI & Co.)

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