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糊口を凌ぐ

ここうをしのぐ

 糊口を凌ぐとは、やっと食べていけるような貧しい生活を送るという意味。「糊口(ここう)」は「口を糊(のり)する」と訓読するが、口を接着剤で張り付けて食欲を我慢するというような意味ではない(そんな意味でも通じるような気もするが)。「糊(のり)」とは「粥(かゆ)」のことで、「糊口」は「粥を口にする」という意味。粥は炊いた米や雑穀を水で煮た食べ物で、ご飯が水を含んで増量するので、「腹が減った」とぴいぴい騒ぐ子どもをだまして穀類を節約するのに適しており、これを常食して日々を凌いで(苦境を切り抜けて)いるから「糊口を凌ぐ」というわけである。「糊」で「粥」を表すのは、飯粒を水で溶いて軟らかくした粥状のものを、以前は実際に紙などの接着剤として使っていたことからかと思われ(素人の推量です)、やはり「食べ物をせがんでうるさい口を糊でふさぐ」という意味でもよいのではないかと感じる。

 上記のように「糊口」は、ほそぼそと暮らしを立てるという意味あいの言葉だが、中国では普通に「生計を立てる」という意味で使われている。たいへん古くからある言葉で、『荘子』人間世篇には、支離疏(しりそ:ばらばらであるという意味)という、ひどい身体障がいを負った男(この人物の外見についてご興味のあるかたは本編をご参照ください。とてもここでは書けないようなありさまです)が、「挫鍼治●(糸偏に解)、足以餬(糊に同じ)口」つまり、挫鍼(はりしごと)と治●(せんたく)で、生計を十分に立てているという一文が出てくる。支離疏はまた、米をふるい分ける仕事で十人分くらいの稼ぎを得て、そこそこの暮らしを送っている。戦争があっても障がいを負っている彼は兵役にかり出されることもなく、土木工事の人夫にもお呼びがかからず、軍務に向かう健常者の間をドヤ顔で歩き回る(やなヤツじゃねえかよ……。しかし、いつも蔑視されているリベンジと思えば、同情できるか)。しかも、障がい者なので政府からのほどこしも受けるという、幸せな生活を送っている。普通の思想書なら、ここで、世間的に不幸と見られている人でさえ、幸せな生活を送れるのだから、健常者は現在の境遇に不満を言ってはならない、というような結論に導くと思われるが、そこはひねくれ者の『荘子』のこと、障がい者でさえ幸せな生活を送れるのだから、道徳を損ない法を破るアウトロー(犯罪者ってことじゃねえか)が天寿をまっとうできるのは当然だという、まさかの展開が待っている。

「糊口」から、話はだいぶ逸れたが、『荘子』の昔から、中国人が粥を食っていたことはおわかりいただけたかと思う。(なんだよ、その突然の展開)

 (KAGAMI & Co.)

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