餅(搗き餅)

もち つきもち

 餅(もち)とは、もち米を蒸したのち、臼と杵でつき固めた食べ物。しかし日本人は、桜餅や柏餅の生地、葛餅、くるみ餅など、餅に似た食感の食品をなんでも「餅」呼ばわりする傾向があり、まぎらわしいので、ここでは日本で一般的に「餅」とよばれている(正月に雑煮に入れて食うヤツだよ)搗き餅について解説する。

 餅は古来祭日の供え物に用いられる神聖な食べ物とされ、特に正月は鏡餅や雑煮など、餅が活躍する。正月のお年玉は、ひとつ年を取ることを祝って餅を配ったことが起こりだそうで、いまからでも起源どおりの風習に戻してほしいと切に願う。

「餅」はもとは「餅(もち)」+「飯(いい)」で「もちいい(もちいひ)」または「もちい(もちひ)」と言い、古くは『豊後国風土記』(奈良時代初期)に使用例がある。それによると、豊後国の田野は、肥沃な土地に水田が開かれ、作物が有り余って余情の稲を刈り取らずに放置するほどだった。毎年の豊作に驕り高ぶった農民は、作った餅を弓矢の的にして遊んでいた。ところがあるとき、餅は白鳥に変身して南方に飛び去った。するとその年のうちに農民は死に絶え(原因不明。たぶん凶作だったんだろうが、この話の伝承者は神罰であると理解している)、田を耕す者ももいなくなり、その後この地は田野(野っ原)と呼ばれるようになったという。当時、餅も白鳥も矢を射ることも神聖な意味があり、神威を恐れぬ者の末路という教訓譚となっている。「もちいい」または「もちい」は、「もち~」というばかみたいな言い方になるので、だんだん「もち」と詰めて呼ばれるようになったのであろう。

 このように、古くからその食品が存在し、「もち」と呼ばれていたことがわかるが、その語源は定かではない。棒の先に付けて鳥や虫を捕獲するのに用いるねばねばした材料を「トリモチ」と言うが、これはモチノキなどの樹皮をつき砕いて得るゴム状の物質である。そのトリモチと同様にねばねばしているから食品の餅が「もち」と呼ばれるようになったという説があるが、ではなんでトリモチの「もち」がそう呼ばれるようになったのかは説明されていない。食品の餅は本来保存食だったので、持ち歩ける、つまり携帯できた飯だから「持ち飯」だとする説があり、そのほうがもっともらしい。「持ち」という語からの連想では、腹持ちがいいからという説もあり、それも実感がともなっている。食品の「もち」のねばねば感から「トリモチ」の語が生まれたと考えた方が自然なようだ。

「餅」という漢字には、日本でいう搗き餅の意味はなく、月餅とか煎餅などと使われているように、練った小麦粉や米粉を焼いて作る円く平べったいまんじゅう的な(?)「粉もん」のことをいう。平安時代に成立した『倭名類聚抄』(日本語の辞書。略して『和名抄』)でも中国の『釋名』(後漢末の辞典)を引用して、「餅」は米粉と小麦粉を合わせたも食べ物(要するに「粉もん」だす)だとしているが、それを「毛知比(もちひ)」と訓読みしている。このころ日本では製粉機(つまり粉引き用の石臼)が普及していなかった。一方で、米などを搗き叩いて脱穀する方法は稲作導入当初からあり、当時「餅(もちひ)」のようなものがあったとしても、粉から作るのではなく、搗き餅が一般的だったはずで、『源氏物語』に登場する鏡餅や亥(い)の子餅、三日夜(みかよ)の餅なども、「粉もん」ではなかったように思う。『和名抄』には、搗き餅に該当する食品の記述がないので、「餅」の定義は単に中国の書籍を引用したまでで、「餅(もちひ)」は実態としては搗き餅を言い表していたのかもしれないが、実態はわからない。日本人が桜餅の皮やくるみ餅なども「餅」と呼ぶのは、当初のこのような混乱を引きずっているのかもしれない。

 現代中国では、日本の「餅」に相当するのは「年糕」とか「黏糕」(どちらもニヤーンカオみたいな発音)と呼ばれている食べ物である。「糕」は米粉などを使った食品を言い、前者は「正月に食べる糕」、後者は「粘りけのある糕」という意味で、餅はやはり祭日に食べるおめでたい食べ物のようだ(てか、その風習が日本に伝わったと見るべきか)。しかし「年糕」「黏糕」は、もち米の粉を使ったもので、日本の餅のような殺人的な粘りけはなさそうだ。かん水などを入れて小麦粉を練ると、とんでもなく伸びるので手延べ麺の製造が可能だが、餅が問題なのは、人が口に入れる時点であの粘りけを持っている点である。日本では毎年餅を喉に詰まらせて亡くなる人が多く、死亡率から考えれば河豚なんかよりよほど危険であり、「餅殺」を警戒した昔の中国の王様が製造禁止にしたのではないだろうか。もちろんこれは私見だが、そうでもなければ、あんな食べ心地のいい食品が中国に残っていないはずがないと思う(ただ単に、餅つきがめんどくさいからやめただけかもしれないが)。

 では、日本の餅のような食べ物がないかというと、さすがだだっ広い中国、苗(ミャオ)族(容姿や文化の類似から日本人のルーツの一とも言われている)などの少数民族の客家(はっか)料理に、「糍粑(ツーバみたいな発音)」という、ほぼほぼ餅という食べ物がある(というか、少数民族の間で生き残ったか)。YouTubeで「糍粑」と検索すると、有名YouTuberシェフの王剛さんが、農村で自身のおじさんに「糍粑」の作り方を教えてもらっている動画が見られる。日本の餅と同じく蒸したもち米を杵と臼で搗いて作るのだが、その作業を近所の人だか親戚だかは知らないがみんなでわきあいあいと協力するのも同様。できあがった「糍粑」はあの恐ろしい粘りを持ち(材料と作り方が餅と同じだからあたりまえだ)、トルコアイスみたいに伸ばしてその危険な味を楽しんでいる。

(KAGAMI & Co.)

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