冷や奴、冷ややっこ

ひややっこ

 冷や奴とは、豆腐料理のひとつで、冷やした豆腐(といっても、水にさらした程度の「冷や」)に、しょう油、ネギなどの薬味をつけて食べる。要するに豆腐の刺し身であり、日本食独特の手抜き料理の代表的なものだが、刺し身のように切り分けているわけでもないので、その手抜き具合はさらに激しく、買ったまんま料理とでもいうべきもの。しかし、豆腐そのものの味を楽しむ(その薄味がわかる人は楽しめる)には最適の食べ方で、夏場の日本酒の肴として適する。

 冷や奴の「奴(やっこ)」は、江戸時代の武家の使用人、下僕のこと。奴が来ていた半纏に◇形の「釘抜紋(くぎぬきもん)」が染め抜かれていたことから、形の連想で、四角に切られた豆腐のこと、または冷や奴のことを「奴豆腐(やっこどうふ)」と呼ぶようになった。

 現代では、釘抜きといえばバールのことを言うが、バールが普及する以前は、いろいろな器具があったようで、民俗学者の南方熊楠(みなかたくまぐす)は『続南方随筆』という著書で、20ページ超にわたって各種釘抜きを紹介している(お疲れ様、みたいな)。その中に、釘抜紋のモデルとなった器具があるが、それによるとこの釘抜きは、一辺2寸(約6㎝)、厚さ8分(約2.4㎝)の正方形の鉄板に一辺1寸2分(約3.6㎝)の正方形の穴があいた座金と、長さ1尺5寸(約45㎝)、幅と厚さ1寸2分(約3.6㎝)の延べ板状の梃子(てこ)からなり、この座金が「釘抜紋」のモデルとなった模様。熊楠はこの釘抜きの使用法を図入りで説明しているが、図を見ながら文章を何度読んでも理解できないので、ここで紹介するのはやめておく(興味のある人は原著を参照。誰も興味もないだろうけど)。

 というわけで、釘抜紋のいわれはおわかりになったかと思うが、「くぎぬき」が「九城(くぎ)抜き」に通じ、九つの城を攻め落とすという縁起のいい語呂合わせから、この紋は武家の家紋に多く用いられたが、江戸時代には大名行列などの先陣を切る奴(やっこ)の衣裳が印象的だったことから、奴=釘抜紋というイメージが定着したものとみられる。奴がその家の家紋と別の家紋のついた半纏を着るとは考えにくいので、要するにこの紋を使用している武家が多かったのではないかと思われるが、詳しいことは調べていません。おヒマな方はどうぞ。

(KAGAMI & Co.)

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