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嗜み、たしなみ

たしなみ

 嗜み(たしなみ)とは、芸事などの心得、趣味、つつしみ、常日頃の心がけなどの意。「淑女のたしなみを身につけなさい」と言うだけで、気品のある女性が(気品ある女性になるために)身につけておくべきふるまい、言葉遣い、マナー、芸事、趣味など盛りだくさんな内容を押しつけることができる便利なパワーワードである。その「淑女」に茶道の心得がある場合、「たしなみ」の動詞形を使って「お茶をたしなんでおります」などと言うが、この「たしなむ」は、「かじる」よりは真面目に取り組んでいるが、茶道の師範をめざすほどの熱中度はない。いわば、いやいや週一のお稽古に通っている程度の「心得かた」について言うか、熱中していたもそれを控えめに(淑女らしく)表現する場合に用いられる。大酒飲みの彼女が「お酒はたしなむ程度です」などと言うのも、控えめな言い方の代表例です。

 「たしなみ」は、「たしなし」という語から派生した語のひとつで、現在の意味はまったく違うが、軽くしかる、注意するという意味の「たしなめる」とも同源と考えられている。「たしなし」は、「足し」が「無し」、または「確(たし)か」が「なし(はなはだしい)」で、貧窮状態にある、ひもじく苦しい、老いて病んでいる、失意のどん底にあるなど、救いようのない状態を意味する。語源の「足し」が「無し」説はわかりやすいが(「こんなはした金じゃ、なんの足しにもなんねえんだよ」みたいな)、「確(たし)か」が「はなはだしい」の方はどういうことか。「確か」には貧窮、困窮状態を耐えるという意味があり、そこから、しっかりしている、確実であるという意で使われるようになったのだとか。というわけで、貧困にものすごく耐えているのが「たしなし」ということになる。

 「たしなむ」も古くは、困窮する、行き詰まる、苦しさに耐えて精進するといった意味で使われ、そこから、万一のために常日頃から用意する、行動をつつしむといった、現在の使い方に寄って来たものと考えられる。苦しさに耐えて精進努力するのが本来の「たしなみ方」であり、「週一でお稽古に通ってま~す」程度のなまっちょろい関わり方は「たしなみ」とは言えないのである。

(KAGAMI & Co.)

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