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さんざめく

さんざめく

 さんざめくとは、大勢でにぎやかに騒ぐという意味。というのが一般的な辞書の説明だが、当辞典では、多数の小さな音やささやき声が重なってざわめく、という定義をとりあえず加えておく(理由は追って説明します)。

「さんざめく」は、谷村新司の『昴(すばる)』で印象的に(というか、なんとなく違和感のある使われ方で)歌われているが、そこで「さんざめ」いているのは「名も無き星たち」。夢を追う人たちの「さんざめき」を無数の星に重ねているというわけで、オーディションで必死に一発芸を披露し、楽屋でやかましく騒いでいる売れない芸人たちの応援歌みたいになっている。……と、一般の辞書通りに解釈すると、そんなイメージになってしまうが、ここでこの谷村さんの「さんざめく」を少し掘り下げて考えてみたい。

「さんざめく」は「さざめく」とも言い、どちらかというとその使い方のほうが一般的。ただ、歌詞の都合で五文字にしたほうが収まりがいいので「さんざめく」と歌っているのではないかと考える。「さざめく」というと連想するのが「さざ波」だが(私だけだろうか)、両者は語源が異なる。「さざめく」「さんざめく」はもとは「ざざめく」「ざんざめく」であり、「ざわざわ」「ざわつく」のような騒がしさの擬音表現に基づいた語。一方「さざ波」はもとは「ささ波」で、「些細な(ささいな)」「ささやか」のように小さな、わずかなという「ささ」から、細かな波という意味となる。「ざざめく」と言ってしまうと、いかにも耳障りな騒ぎ方が想起されるが、「さざめく」となると「さざ波」のイメージがかぶり、オーケストラ開演前の劇場の客席のようなささやき声の重なりが聞こえてくる。そう考えると、谷村さんの「さんざめく」も、売れない芸人たちの騒々しい「騒ぎ」ではなく、自分の仕事に黙々と取り組んで、たまに小声でつぶやく程度の、小さな星たちのさざ波のようなざわめきとなり、この歌にふさわしい印象となる。

「一所懸命」が「一生懸命」と変化して流通しているように、言葉は、響きのリアルさや、その意味するところに実感がともなうかどうかによって変化するものであり、「さんざめく」が辞書にどう書いてあるかはともかく、谷村さんの歌の理解は当辞典が追加した定義の通りでいいと思う(本人がどう考えているかは知らんけど)。

 (KAGAMI & Co.)

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