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そぞろ歩き、漫ろ歩き

そぞろあるき

 漫ろ歩き(そぞろ歩き)とは、あてもなく歩き回ること。といっても、道に迷って歩き回っているわけではなく、自主的な歩行である。要するに「散歩」だが、散歩よりは目的性や習慣性(健康のために毎日歩いてま〜す、みたいな)に欠ける。つまり、夜中にこれをやっていると、不審者として通報されたり、「おじいちゃんがいなくなった」と捜索届けを出されたりする行為である。「そぞろ」はもとは「すずろ」と言ったようで、これという確かな根拠や原因のない状態、落ち着きなくそわそわした気分をいう。したがって、「そぞろ歩き」は、「歩きたいから歩く」的な「散歩」より、いてもたっていられずふらふら出歩くというやや強迫観念的な歩行であるとも言える。

『伊勢物語』には、「むかし、男、陸奥(みち)の国にすずろにゆきいたりにけり」すなわち「昔ある男が、なんとなく東北地方に行き着いちゃった」(どんだけ「すずろ」なんだよという話である)という記述があり、俳人の松尾芭蕉もそれに影響されて、「そぞろ神の物につきて心をくるはせ」すなわち「そぞろ神がついたみたいで平常心を失い」として、やはり東北地方の旅に出かけている。今で言う、「自分探しの旅」みたいなもので、両人ともかなり重度の「そぞろ(すずろ)心」を患らっていたとみえる。しかし、伊勢物語の男の方は、行った先で女に惚れられ、一晩を共にするが、「きみは田舎もんだから都にはお持ち帰りできないっす」みたいな歌を残して去っていくというふといヤツであり、そぞろに東北地方を経巡って名作を残した芭蕉とはえらい違いである。(KAGAMI & Co.)

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