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この辞典の使い方(ホーム)「と」で始まる言葉>転落の意味、語源

カテゴリー:二字熟語

カテゴリー:慣用語

転落

てんらく

 転落とは、ころげおちること。主に高いところから下へ落ちることをいう。つまり「落下」。最近のニュースで「日本の名目GDPが3位から4位に転落した」というタイトルを目にするが、それがなんだか煽り記事のように感じられるのは、この「転落」という言葉を使っているからだ。オリンピック選手なら、3位から4位になるのは表彰台に登れるか登れないかの大きな違いなので、この言葉が適しているかもしれないが、それでも「●●選手、4位に転落」などと書いたら、必死に戦った選手を傷つけかねない表現となり、あまり使用されない(サッカーなどの団体競技で、サポーターのお怒りが激しい場合は、「ランキングが転落」などとよく書かれるが)。同じように「GDP」の記事のタイトルも、せいぜい「後退」とするか「3位から4位に」で止めておくのがよろしかろうと思う(よけいなお世話だが)。

「転落」という言葉はなぜ刺激的、煽情的なのか。さきほど「転落」とは「落下」のことだと書いたが、単なる落下なら「落下」でいいのだが、落下する意味の「落」に、転がる、転ぶという意味の「転」をあわせているところがこの熟語のポイントなる。つまり「転+落」とすることにより、転がりながら落ちる、転んで落ちるというニュアンスが付加されるわけだ。バスが崖から落下する転落事故は、崖を回転しながら、つまり転がりながら落ちるというイメージがある。しかし工事現場などでの転落事故は、必ずしも回転しながら、転がりながら落ちるという印象はない。この場合の「転落」は「転んで落ちる」という意味だと筆者は考える。

 では「転がる」と「転ぶ」ではなにが違うかということだが、「転がる」はでんぐり返しのように地面などの表面で回転すること、回転を繰り返すことをいうのに対して、「転ぶ」は状態としては「倒れる」と同じだが、「転」で表されるように回転するように倒れることをさす。例えば人が「倒れる」のは、熱中症がかなにかでその場で立っていられずに地面などに横になることをいうが、「転ぶ」は歩いていてなにかにつまずき、歩いている勢いがついたまま回転するように倒れるという状態をさす。「つまずく」は、例えば「事業経営につまずく」などとも使うように、自分の不注意やミスで危ない状況を招くという意味合いが含まれる。同様に「転ぶ」も、熱中症などの外力により立っていられなくなる「倒れる」より、自分の不注意やミスで、つまり自己責任で倒れるというニュアンスが強くなる。このように「転落」を「転んで落ちる」と解釈した場合、自分が失敗をおかして落ちるというストーリーが描かれ、そこから、親の資産を食い潰して落ちぶれた人物について「転落人生」などという慣用表現が使われることになる。豊かな生活におごり高ぶった末に没落した平家一族などは、「転落人生」「転落家族」と呼ぶにふさわしいだろう。

 冒頭の「日本の名目GDPが3位から4位に転落した」の「転落」は、高いところから落ちること、茶碗が落ちるように落ちて壊れること、バスの転落事故のようにダメージを受けながら落ちること、自己責任で転んで落ちること、豊かな生活からおちぶれること等々を、たった二文字で饒舌に語っているわけだ。これを書いた記者は、記事を読ませるために読者にそのような印象を強く抱かせる効果を狙っているか、おバカなのでほんとうに貧乏生活にまっさかさまに落ちたと思っているか(ビッグマックが安いので、ほんとうに貧乏だと思っているのかもしれない)、おバカなので言葉の使い方に気を使っていないかのいずれかと考えられる。

「転落」は中国語っぽいが、この熟語は中国にはないらしい。類似の語に「滚下」「掉下」などがあり、それぞれころげおちる(回転しながら落ちる)、落下するという意味で使われるようだ。「滚」「掉」には、「転落」の「転」にみられるような、なにかやらかしちゃって転ぶという意味合いはなく、したがって、おちぶれるという慣用的な使い方もされない。おちぶれると言いたい場合は「堕落」のような別の語が使われる。中国人としては、「転」という字のあいまいな使い方が気に入らないのかもしれない。

​(VP KAGAMI)

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