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豚児

とんじ

 豚児とは、ブタの子どもという意味だが、自分の子どもをへりくだっていう語である。つまり、「愚息(ぐそく)」と同じ使われ方をする言葉だが、へりくだりかたがあまりに大胆で卑下に近いので、微妙な謙遜表現を好む日本社会には適さず、ほとんど使われていない。出典を調べると案の定中国で、中国清代の百科辞典的俗語集(この辞典みないなものですね)『通俗編』に「豚児犬子」という項目が見られる。つまり清代以前には、日常的にその語が使われていたということだろう。「犬子」も同じ意味で、現代中国でも「豚児」はさすがに「そこまで卑下せんでも」と感じられるのか、「犬子」が主に使われているようである(注:中国人の心情まではわかりません。それに「犬子」でも十分キツい謙遜だとは思います)。

 ところで、この「豚児」という言葉の使用例をぜひともお聞きになりたいという方は(そんな人はあまりいないとは思うが)、五代目春風亭柳昇師が作った『課長の犬』という新作落語で、「われわれ豚児と事変わり、課長の所は麒麟(きりん)の子」と聞かれる。このあと「さぞかし、首が長くなるでしょう」と落とすのだが、「麒麟」はもちろん動物園のキリンではなく、中国の想像上の超獣。優れた子どもを「麒麟児(きりんじ)」などと言い、日本でも相撲の力士のしこ名に使われている。ところで『課長の犬』は、課長に子どもが生まれたと勘違いした部下が、「まさしく課長の血が流れている」などと犬の子をほめるというお話し。「犬子」がほんとの犬の子だったというわけだが、この言葉が意識されていたかどうかはともかく、日中戦争の戦場で奮闘し、その体験談を語った名作『与太郎戦記』で知られる柳昇師ならではのネタだとは言えそう。(KAGAMI & Co.)

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